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PASSAGE 「パサージュ、博覧会場、駅――これらはすべて通過移動のための建物である」(ベンヤミン『パサージュ論』より)
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過去への変換装置としての映画——『メモリイズ』
冒頭はフェリーの船室の窓、そしてラストでは、寝室の窓が映る。冒頭のシーンの場合、窓からの景色はほとんど変わらないものの、窓の前に座っている人物が次々に変わっていく。一方、ラストでは窓の前には誰もいず、窓から風景が映るだけだが、その風景がそれぞれの季節を示すものにやはり変化していく。窓がスクリーンの比喩であることは言うまでもないが、しかもそこでの映像が、まったく同じ構図でありながら、部分的に異なるショットの積み重ねとなっていることで、時間による変化を感じさせるのである。 大きな事件は起らない。足を骨折してしまった義父の誠(イッセー尾形)の身の回りの世話するために、2ヶ月間大分に行くことになり、雄太(柄本佑)が東京からフェリーに乗り込む。映画において描かれるのは、写真館を営む誠をサポートする雄太の日常と、まだ幼い娘の花と東京に残り、花を保育園に送り迎えしつつ、中国系外国人旅行客の東京見物のアテンドをしている雄太の妻・ゆき(穂志もえか)の日常である。要するにホームドラマ的な映画なのだが、一般的なホームドラマと違うのは、夫と妻が別々の場所で日々を過ごし

昌親 谷
6月5日読了時間: 4分
人間を「アニメ」する映画——『急に具合が悪くなる』
たとえば進藤兼人監督の『裸の島』のように、まったく台詞のない作品も存在するが、劇映画の場合、通常は会話を積み重ねることで物語が進行していく。そうした劇映画のあり方のなかでも、濱口竜介監督の場合は、会話劇の色合いが強い。だが会話劇と言っても、小津安二郎やエリック・ロメールのように、家族や恋愛にまつわるテーマを扱うわけでは必ずしもない。ときに、実に理屈っぽい会話が続いたりするのだ。しかも濱口監督の作品は往々にして長尺である。5時間17分も続く『ハッピーアワー』ほどではないにしても、新作の『急に具合が悪くなる』も上映時間が196分、つまり3時間16分であり、日常的な会話ももちろんあるものの、ときとして資本主義についての議論が展開したりする。なにしろ原作は、哲学者と文化人類学者が交わした往復書簡をまとめた本なのである。そうした、いわば硬派の会話すら出てくる長尺の映画でありながら、いささかも観客を飽きさせない——少なくともわたしは飽きなかった——ということにまず驚きを覚えずにはいない。 同じ会話でも、小津の場合なら独特の語彙やリズムが楽しいし、ロメールの

昌親 谷
5月25日読了時間: 4分
『人はなぜラブレターを書くのか』
公開されてから1か月近くが経った段階で観た作品だが、なるべく情報を入れないようにして映画館へ足を運んだ。 そのため、青春時代に実らなかった恋についての話なのだろうと見つづけていたところ、20年以上も前に好きだった相手に書いた手紙をめぐる展開の意外さに半ば不意を突かれ、さらに、大きな事故がからんだり、ボクシングの世界タイトル戦につながってもいく物語に、少し盛り込みすぎではないかとさえ感じてしまったのだが、観終わってから、実話がベースになっている作品だと知って、心底驚いた。まさに、事実は小説より奇なり、といったところだ。そうした題材を見つけ出し、丁寧に映画化した石井裕也監督のセンスが際立つ作品である。 過去と現在がかなりめまぐるしく入れ替わる構成であるが、だからといって観ていて混乱することはほぼないし、そうしたかたちでしか描けない心の揺れを表現していると言えよう。しかも、そうした心の揺れは、あわいの時空のなかで生起してくる。深夜から早朝にかけての時間帯がなんどか描かれるが、日常が夜の闇や早朝の淡い光のなかで揺らぐような感覚のなかで、生と死の境界も

昌親 谷
5月16日読了時間: 2分
『勝手にしやがれ』をパートナーに軽やかにダンスを踊る映画——リチャード・リンクレイター『ヌーヴェル・ヴァーグ』
映画の撮影現場を描いた作品は、トリュフォーの『アメリカの夜』を筆頭として、それなりの数があるはずだ。しかし多くの場合、映画内で撮られている映画は実在しないものとなっている。一方、タヴィアーニ兄弟の『グッドモーニング・バビロン!』はグリフィスの『イントレランス』、イーストウッドの『ホワイトハンター ブラックハート』は、作品名や人名は変えてあるものの、ヒューストンの『アフリカの女王』の撮影現場を描いていたが、映画で主眼となっていたのは、その撮影現場における人間関係などであった。 しかしリチャード・リンクレイターの新作『ヌーヴェル・ヴァーグ』の場合、ゴダールの長篇第一作『勝手にしやがれ』の制作過程そのものがまさにテーマとなっているのである。もちろん、そこでの人間関係も描かれる。ところが、ゴダール、ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ、そしてプロデューサーのジョルジュ・ド・ボールガール、撮影監督のラウル・クタールあたりを中心にそれが展開するのは当然だが、端役を演じたリリアーヌ・ダヴィッド、助監督だったピエール・リシアン、メイクアップアーティスト

昌親 谷
5月14日読了時間: 4分
『シンプル・アクシデント 偶然』
昨年の第78回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したジャファル・パナヒ監督の新作は、一種の復習劇だ。かつて、反体制的な言動が原因で投獄され、看守から拷問を受けてその後遺症に苦しむワヒドという男が、あるとき、その看守らしき男を偶然見つけ、拉致して生き埋めにしようとするものの、男は否定し、男が持っていた身分証明書の名前もワヒドが知っている名前とは違う。迷った末に、やはり投獄されて看守から拷問された経験のあるほかの者たちに確かめてもらおうとするが、それでも確信には至らない。 その結果、単純な復讐劇として展開していかず、迂回に迂回を重ねていく。そうした状況を作り出しているのは、ワヒドたちが投獄されて看守から拷問された際、目隠しをされていたという設定だ。ワヒドが看守だと認識したのは、その男が看守と同じ音を立てて義足で歩いていたからなのである。パナヒ監督自身の体験に加え、やはり投獄されたことがある人たちの話を参考にこの話を考えたということだが、聴覚だけが頼りというなかで、ワヒドたちの迷いや錯綜が生じ、それがドラマとなっている(さらには、独特のラストを生み

昌親 谷
5月12日読了時間: 3分
『SINSIN AND THE MOUSE』について
今年(2026年)に入ってから、とにかく慌ただしく、試写会にずっと行けないでいた。まだすべて片付いたわけではないが、ひと段落したので、ずいぶん久しぶりに試写会場まで足を運んだ。 観たのは、真壁幸紀監督の『SINSIN AND THE MOUSE』。吉本ばななの短篇小説が原作で、岸井ゆきの主演、台北でロケしている、といった程度の情報しか入れていない状態で試写会場の座席についた。 最初に眼についたのは、ロングショットを多用している一方で、どう見てもシャロウフォーカスであること。たとえば冒頭のショットは、台北の公園のベンチに腰かけている岸井ゆきの背中越しに、公園のなかで太極拳かなにかをやっている人びとをとらえたもの。岸井ゆきの自体もかなり小さく映っているので、それなりに離れた場所から撮影しているはずだが、岸井にピントがあった画面の奥で、他の人びとはぼやけて見えることになる。 もちろん、シャロウフォーカスは撮影現場の光量によっては必然的にそうなることもあるので、必ずしも奇異なことではないが、技術的な進歩によってむしろディープフォーカスが当たり前にな

昌親 谷
4月17日読了時間: 3分
『映像が動き出すとき』について(その1)
もう何年前からだろう、おそらく20年近くにはなるのではないかと思うが、若い友人たちと研究会をやっている。最初は漠然と「モダニズム研究会」のような感じだったのだが、ある時期から「Image Study Session」という名称にして、イメージ論的な観点からいろいろな問題を扱...

昌親 谷
2025年1月1日読了時間: 7分
『ロストケア』について
前田哲監督の『ロストケア』(2023年、114分)を劇場で鑑賞。 訪問介護を受けていた老人が亡くなり、その家で介護センター長の死体も見つかったことがきっかけで、検事の大友(長澤まさみ)は、介護センターの職員である斯波(松山ケンイチ)に疑いの眼を向けるようになる。...

昌親 谷
2023年4月6日読了時間: 2分
『うつろいの時をまとう』
今週公開の新作映画のなかですでに観ているのは、昨日(3月25日)からシアター・イメージフォーラムで上映が始まった『うつろいの時をまとう』のみです。 『うつろいの時をまとう』は、服飾ブランドmatohu(まとふ)についてのドキュメンタリー映画。matohuは堀畑裕之と関口真希...

昌親 谷
2023年3月26日読了時間: 3分
映画『零落』『郊外の鳥たち』について
明日3月17日(金)および明後日3月18日(土)に公開される映画のうち、試写会で観ている『零落』と『郊外の鳥たち』について書いておきます(ただし、『郊外の鳥たち』に関しては、Facebookにすでに載せた文章に加筆したものを使います)。...

昌親 谷
2023年3月16日読了時間: 3分
映画『Winny』『オマージュ』『Worth 命の値段』『コンパートメントNo.6』について
【Facebookに3月10日に投稿した文章ですが、むしろブログ向きと考え、一部加筆して掲載します】 先週3月10日(金)に封切られた2本の映画、そしてすでにそれ以前から公開されている2本の映画について。 先週公開された2本は、『Winny』と『オマージュ』。いずれもオンラ...

昌親 谷
2023年3月15日読了時間: 5分
同じものへと向けられた視線
川上弘美さんの文章を引き合いに出しつつ、息子と自分が「異世界から来た存在」のように感じられたというようなことを前回書いたが、ならばお前は息子のことが理解できているのかと問われれば、それこそ息子が「異世界から来た存在」のように見えてしまうことが少なからずあると告白するしかない...
谷 昌親 Masachika TANI
2021年3月26日読了時間: 2分
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