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『うつろいの時をまとう』

  • 執筆者の写真: 昌親 谷
    昌親 谷
  • 2023年3月26日
  • 読了時間: 3分

 今週公開の新作映画のなかですでに観ているのは、昨日(3月25日)からシアター・イメージフォーラムで上映が始まった『うつろいの時をまとう』のみです。

 『うつろいの時をまとう』は、服飾ブランドmatohu(まとふ)についてのドキュメンタリー映画。matohuは堀畑裕之と関口真希子の2人が2005年に立ち上げたブランドで、これまで「かさね」「無地」「ふきよせ」「なごり」など日本的な美学に通じる言葉をテーマにコレクションを発表してきた。堀畑はドイツ哲学を、関口は法律をそれぞれ大学で専攻したのち、文化服装学院で服飾デザインを学んでいるが、そうした経歴のせいか、他のデザイナー以上にコンセプトを大事にしているように見える。しかもそのなかで、流行を追い求めるようなファッションのあり方とは真逆にも思える、日本古来の美意識に注目しているところが独特だ。

 堀畑と関口は、壁や道路のしみ、吹き寄せられた落葉の重なり、早朝の空の色のグラデーションなどに見出される美を服に移し替えていく。そうした美を見出す彼らの眼は、おそらく写真や映画が求める眼にも通じるだろう。彼らの美意識を反映するかのように、映画自体も、さまざまな風景を映した撮影、その風景と響き合うような音楽も含めて、美しい作品になっている。

 その一方で、ただ観念的な美を見せるだけでなく、実際の服がどのような手仕事によって形になっていくかを丁寧に見せてもいる。つまり、眼についての映画だけではなく、手についての映画にもなっているのだ。それは、matohuがオリジナルテキスタイルを用いた服作りにこだわっていることにも通じるだろう。

 また、作り手の視点だけではく、実際に着る人の視点からも語られているところが、この映画のもうひとつの特徴でもある。実際、この映画を観ていると、matohuの服をそれこそまとってみたい気持になるのだが、着る側の視点も入ることで、ただ日本の美意識を反映させただけでなく、人びとの日々の暮らしに寄り添った服でもあることが感じられてくる。

 観ていて非常に心地よい映画ではある。ただ、その心地よさを疑わせるようなもうひとつの視点がさらにあってもいいのかもしれない。着る人の視点からも語られていると言ったが、そこで登場する人たちは、漆器の漆塗りをおこなう塗師、そして能楽師や俳人で、いずれもがもともと日本的な美の世界で生きている人びとだ。matohuの2人が、日本の美学に寄り添いながらも、着物ではなくあくまで洋服のデザインをしている以上、日本美学を相対化する視点がほしいように思うのだ。もちろん、matohuの2人は流行を追い求める西洋的なファッションに対する一種のアンチテーゼとして日本的な美学に注目しているわけだろうが、だからこそ、日本美学のなかに収まりきらない部分を掘り起こしておく必要もあるように感じる。



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