小舟とともに滑走する映画——『大統領のケーキ』
- 昌親 谷

- 8月4日
- 読了時間: 2分
深刻な食糧不足に苦しむ1990年代のイラクが舞台。教室でのくじ引きで、独裁者フセイン大統領の誕生日を祝うケーキを作る係に選ばれてしまったラミアは、市場に行って、なんとか材料を手に入れようとする。親友のサイードが手助けするが、まだ小学生のふたりでは思うようにいかない。ラミアは祖母と暮らしてきたが、その祖母が糖尿病でもう孫娘の面倒をみられなくなったという事情もある。
ときおり当時の記録映像なども挿入されるが、イラクの歴史を描くというよりも、困難に直面して奔走する少女、そしてその少女を助けようとする少年の姿にひたすら追った作品だと言えるだろう。ラミアが、“友達”の雄鶏ヒンディをずっと胸に抱えている姿も印象的だ。
大統領の誕生日までにケーキを用意しないといけないわけで、タイムリミットが迫るなかで右往左往する少女と少年に寄り添うという意味では、その日のうちに隣の村に住む級友にノートを返さなくてはならず、知らない村で級友の家を探すものの、なかなか見つからずに困惑する少年を描いたキアロスタミの『友だちのうちはどこ?』を彷彿とさせる。職業俳優ではない子どもたちから、瑞々しい演技と魅惑的な表情を引き出したあたりも通じるものがある。『大統領のケーキ』を監督したハサン・ハーディにとって、これが最初の長篇映画だというが、とてもそうは思えないほどの演出力だ。
この映画でとりわけ魅力的なのは、ラミアたちがイラク南部の大湿地帯「アフワール」に住んでいるという設定のため、水辺の生活や風景がふんだんに描かれることだ。ラミアは登校の際も小舟を漕いで行くのだが、水上の舟とともに、映画そのものがの滑走していくかのようだ。
7月10日公開
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