昨日(3月31日)公開された、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ Jean-Pierre et Luc DARDENNE 監督の『トリとロキタ』Tori et Lokita(2022、ベルギー=フランス、89分)について。
地中海を渡ってアフリカからベルギーにやってきた少年トリと少女ロキタの物語。トリはベナン出身で、ロキタはカメルーン出身だが、新天地をめざす過程でたまたま知り合い、周囲にはたがいを弟であり姉であると告げる仲になっている。ビザを申請中のふたりは、レストランで歌を歌って小銭をかせぐだけでは足りず、麻薬の運び屋もやっていた。そんななか、トリにはビザが発行されたのに対し、ロキタの場合は申請が却下され、正規の仕事に就けないまま、密航斡旋業者から密航費用を搾り取られ、祖国の家族からは仕送りを求められてもいる。ついに彼女は、偽造ビザを手に入れるために危険な仕事に手を出すことになり、それが二人の運命を狂わせていく……。
ダルデンヌ兄弟は、いつものことではあるが、社会のひずみに翻弄される個人のドラマをドキュメンタリーのように淡々と撮っていく。運命にもてあそばれるのが、今回のように子どもであることが多いのも、ダルデンヌ兄弟の映画の特徴かもしれない。
プレスシートには彼らの次のような言葉が記されていた。「私たちの脚本では、トリとロキタの身体の動きを描写する方法でふたりの行動を重視しました。自分の持ち物を交換すること、ふたりで歌う歌、そしてお互いがお互いに向かってみせる優しい仕草。私たちのカメラとマイクは、彼らの身体、しぐさ、視線、言葉の細部に焦点を当て、この友情を描き出しました」。
この発言にあるように、ダルデンヌ兄弟はトリとロキタの心情を説明するような台詞をほとんど入れないまま、二人の行動や身体の動きを見せていく。それはいかにも映画的な表現であるわけだが、そうした描写は観客が安易に作中人物に感情移入することを許さない。人物に同一化できさせすれば、たとえ悲劇的な出来事に出会っても、観客は一種のカタルシスを感じることができるだろう。しかし、あくまで人物の動きを淡々と追いかけるダルデンヌ兄弟のカメラは、私たちもまた、トリとロキタを追い詰める社会の一員であることを否応なく思い出させるのだ。ベルギーから遠く離れたアジアの島国の観客ですら、その事実に気づき、震撼せざるをえない。
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